「キト、白鳥へ飛べ!」ストーリー全文

1. 米不足

「豊作じゃー!豊作じゃー!」

その年、白鳥では米が豊作で、百姓衆も大喜びだった。
しかしあまりの収穫の多さに米が余ってしまい、食べきれなくなった米を、人知れず粗末に扱う者もいたという。もったいないことじゃ。

あくる年、去年とは打って変わって深刻な米不足に百姓衆はほとほと困り果ててしまった。
それも、さしたる原因も見つからない、まるでキツネ憑きにでも会ったかのようだった。
「おらの田んぼはもうだめじゃ、なーんも取れんくなっちまった」
「おめぇんちもか、おらんとこも田んぼが、なんかに食べられたっちゅーかの、稲はみーんな枯れてしもうた、もうだめじゃー!」

丁度、いとこの家に遊びに来ていた三吉少年は、その話を聞いているうちに、おばぁから聞いたある古い言い伝えを思い出した。
「三吉や、お米は大事にせにゃーいかん。お米を粗末にしよる人がちょっとでもおったら、「田つくらい」ゆうお化けが、田んぼを荒らしに来るでよ。あーおそろしか…」
三吉は、まさか本当にそんなことが起こるとは信じられず、身震いした。


2. 田つくらい

「そうだ、キトに聞いてみよう。何か知っているかもしれない。」
三吉少年はサヌザ岩の方角へ向かい、ウヌラの耳と紅葵の芽を手にすると、叫んだ。

「キト、マドゥキリ、アヌーア、ゼハ!」一瞬で三吉は高鷲へと飛び、サヌザ岩の前に立っていた。

「少年よ、私を呼んだか。」
「うん、キト、白鳥が大変なんだ。お米が全然とれなくなっているんだ。お前何か知らないかい?」
「それは、田つくらいという悪霊の仕業だよ。米を粗末にすると現われて田畑を荒らす悪いやつだ。」
「へぇ〜。そいつはおっかねぇなぁ。その田つくらいってやつは、よーっぽどお米が好きなんだろなー。」
「いや、そうじゃない。田つくらいはもともと人間だったのだ。
昔、悪い代官が無理な年貢取り立てをして、罪もない百姓たちを苦しめたんだ。その代官は後で厳しい罰が与えられた。
田つくらいは、その代官の化身なのだよ。」
「ふーん…なんか、むずかし話だなぁ。」
「いかに田つくらいの怒りを鎮めるか、だが…」

キトはそう言うと考え込んでしまった。


3. 百面の召喚

「ねぇ、キト、どうすれば田つくらいを退治できるの?」
「うん、それにはな、白鳥の百面を呼ばなければ」
「百面?」
「そうだ。飛ぶぞ!少年。白鳥へ!」
そう言うとキトは三吉と供に大空へ舞い上がった。

白鳥に戻ったキトと三吉少年は、奇妙なお面をつけた人たちが太鼓を前にして立っている姿を見た。
「うわっ、なんだー?!こわいなー!」
「この者たちは百面と言ってな、悪霊を退治する白鳥の神様だよ。」

その頃、田つくらいはほとんどの田畑を食いつくし、我が物顔でふんぞり返っていた。
隙を逃さず、百面の頭の「壱の神」がこう叫んだ。

「われら百面の打ち出す太鼓の響、受けてみよ!」
「ドーン!(実際には太鼓の音)」
「ひぇー!」油断した田つくらいは悲鳴をあげた。
もうひとつ、「ドーン!(同上)」
また田つくらいは悲鳴をあげながら飛び上がった。
そしてついに、百面は全員で太鼓を叩き始めた!

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「宝暦義民太鼓さん」の演奏時間X分
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観念した田つくらいは山へ逃げ、無事キトにより封印されたのだった。
そして田畑は今までどおり作物がとれるようになった。


「やっぱおらのとこの米が一番うめぇさー」
「いーや、おらんところだ」
「お・ら・だ!」

白鳥にやっと平和が戻ったのであった。
みなさん、くれぐれもお米は大切に。
また、田つくらいがやってこないとも限らないですから。